大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)1456号 判決

本件は切餅の製造販売業を営んでいた被告人がその事業所得を主体とする所得税を免れようと企て,右事業の売上収入及び仕入れの一部除外,仕入れの水増し等の方法により所得を秘匿したうえ,昭和55年から同57年までの所得税につき各虚偽過少の所得税確定申告書を提出し,3年分で合計3億9,919万6,400円の所得税を免れたという事案であるところ,本件の税逋脱額は約4億円弱で,中小企業者としては稀に見る大規模なものであること,所得申告率は3年平均で約6パーセントと極めて低く,税逋脱率は同97.6パーセントと極めて高いこと,所得秘匿の不正手段も従業員や原料納入業者等に働らきかけて帳簿の虚偽記入や二重帳簿の作成,又は虚偽の領収証作成などをさせているほか鉾田工場の製造分は長男名義で申告するなど多様であり,売上除外額は共同経営分を除き3年分で約9億7,600万円の巨額に及んでいて大幅であり,計画的で大胆というべきであること,脱税の動機も不況に備え,また同業者の木村一族と対抗して行く必要上事業資金蓄積のためというのであって酌量の余地に乏しいこと等に徴すると,被告人の納税意欲の稀薄さは甚だ顕著であって,その刑事責任は重いといわなければならない。

そうすると,被告人がその創意工夫と販売努力等により急速に事業を成長させて予想外の多額の収益をあげるに至ったこと,しかるに被告人の経歴・境遇等からして,事業拡大に応じた経営の合理化等をはかる余裕がなかったこと,被告人は前科等がなく,本件起訴後十分反省し,滞納本税及び付帯税等の納付に努力したこと,その他被告人の事業の地域社会における貢献度等,所論指摘の原判決当時存在した被告人のために酌むべき諸事情を斟酌しても,本件は懲役刑の執行猶予を相当する事案とは認め難く,原判決が被告人を懲役1年6月及び罰金6,000万円に処したのが重過ぎて不当であるということはできない。

しかしながら,原判決言渡後において被告人は更に反省の度を深め,金策に努力して約1億7,660万円余を納付して滞納諸税を完納したほか,贖罪のため地震災害を受けた長野県王滝村に2,000万円を寄付してその意を表明したこと等が認められるから,右事情をも斟酌するときは,本件につき懲役刑の執行を猶予することはなお相当でないが,原判決の量刑は懲役刑の刑期の点で重きに失し,現時点においてはこれを破棄しなければ明らかに正義に反すると認められる。

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